
「DENJIROは他のカメラマンとはまったく違う、オリジナルな存在だ。そう、ほとんどのカメラマンはあくまでもフォトグラファーだが、彼はアーティストである」。
佐藤傳次郎の撮影スタイルについて訊ねると、ジェリー・ロペスは一瞬だけ考えを巡らせてから、ごく簡潔にこう答えた。
つまり、佐藤傳次郎は、写真という記録を残すだけの存在ではない。たしかにそこにあった瞬間は、彼の手で意味が与えられ、永遠に昇華される。
父を亡くし帰国していた彼に、遠慮がちにインタビューを申し込む電話をかけると、最初は留守番電話。翌日かけなおすと、あまり乗り気ではなさそうだったのに、突然確信ともいえる言葉が湧き出るようにあふれ始めた。しかし、こちらがいるのは原宿の喧騒のなか。彼の話を聞くにはあまりに不似合いな場所である。けれど彼は、こちらの困惑など気にもとめずに話し続けた。 「僕は間違いなく、その時、そこにいたんです。それは『消えゆく宝石』。写真にしないと消えてしまう一瞬のきらめき。それを伝えることが僕の役割だと思います。聞き書きではなく、絵でもなく、たしかに存在した瞬間を僕は写真に残してきたんです」。
『MAKANI PILI』は『風』を意味する。暑いハワイに快適さを与え、さまざまなものを伝えてきた『ハワイの風』に、彼は特別な意味を感じている。『消えゆく宝石』を集めた写真集に『風』というタイトル。マナは流れ、とどまることを知らない。 「ハワイの言葉で『気』を『マナ』と呼びます。エネルギーは移ろい、しかしその流れには意味がある。波は風がつくり出しますが、それは地球の産物であり、また宇宙が生み出したものです。波は全てを洗い流し、同時に何か大切なメッセージを私たちに伝え、気付きを与える。地球を少しでも良い状態に保つことができるように……。私たち海と深く関係を持つものには、そのメッセージを伝える使命があるのです。 僕の写真を見た人が少し幸せな気分になって、外に出て風に吹かれた時にやさしい気持ちで地球のことを考えてくれたらと思います。それが大きなうねりになれば、地球をより良くする力になるはずです。少しずつ、でも確実に、世界にそのうねりが起こってきていると思います」。
芸術とは、現実を昇華し、エネルギーの粒にして地球を覆うこと。ジェリー・ロペスが言うように、佐藤傳次郎の写真はたしかに芸術である。人と地球が織り成す、美しく、神々しい瞬間。瞬きをすれば消え去ってしまうその宝石を残すこと彼の使命であり、そこにはかけがえのないメッセージが込められているのだ。そして、写真集『MAKANI PILI』には彼が長年とりためた『消えゆく宝石』が大切に保管されている。
富山英輔
1965年11月24日生まれ。マリンスポーツ専門誌の編集長を経て、1993年よりフリーランスに。現在は、サーフィンと、海があるライフスタイルを主なテーマに、人、物、旅、食など、さまざまな執筆活動を行う。また、湘南のライフスタイルを扱う『湘南スタイル・マガジン』、海を愛する男たちのライフスタイル誌『海楽』の編集長を務める。
著書に『サーフィン上達101のコツ』、『サーファー真木蔵人』。有限会社ETクリエーション代表取締役社長。鎌倉市 在住。